あれは湿気が肌にまとわりつくような八月の夕暮れ時のことでした。夕食の準備をしようと米びつの蓋を開けた私は信じられない光景を目の当たりにしました。いつも通りの白いお米の中に数ミリの小さな黒い点がモゾモゾと動いていたのです。最初は見間違いかと思いましたが目を凝らすとそれは一匹ではなくあちこちでうごめいておりさらに一部のお米が白い糸のようなもので繋がって不自然な塊になっている場所もありました。私は一瞬で全身の毛穴が逆立つような嫌悪感に襲われましたが今日のご飯がなければ家族が困ると思い必死に冷静さを取り戻しました。インターネットで調べると黒い小さな虫はコクゾウムシで白い糸の塊はメイガの幼虫の仕業だと分かりました。毒はないという記述に少し安堵したもののやはりそのまま炊く勇気はありません。私は大きなトレイにお米を広げ明るい場所で一粒ずつ虫を取り除くという果てしない作業を開始しました。コクゾウムシは光を嫌うのか広げるとすぐに逃げ出そうとするためそこを割り箸で一匹ずつ捕まえていきました。結局一時間近くかけて目に見える虫を排除しその後はボウルで入念に洗米しました。虫に食われて中が空洞になったお米は水に浮いてくるためそれを丁寧に掬い取って捨てていくとようやくいつもの綺麗なお米に戻った気がしました。炊き上がったご飯は幸いなことに味の違和感はありませんでしたがこの経験は私にとって大きな教訓となりました。それまで私はお米を乾物のように扱いキッチンのシンク下に常温で置いておくのが当たり前だと思い込んでいたのです。しかし湿気がこもりやすいシンク下は虫にとって最高の繁殖場所でした。この事件以来私はお米を購入したらすぐにペットボトルなどの密閉容器に小分けし必ず冷蔵庫の野菜室で保存することを徹底しています。また米びつの中に乾燥唐辛子を入れるという昔ながらの知恵も取り入れました。一粒の虫に怯えることなく安心して美味しいお米を研げることの幸せをあの日以来しみじみと感じるようになりました。
真夏のキッチンで遭遇したお米の虫との格闘体験記