梅雨の時期や雨上がりの朝、庭の隅や玄関先で、ぬらりとした黒い影を見つけて思わず足を止めた経験はありませんか。その正体は、多くの人が知っているようで、実はあまりよく知らない「なめくじ」です。彼らは一体何者で、なぜあのようにヌメヌメしているのでしょうか。その生態を知ることが、効果的な対策への第一歩となります。なめくじは、生物学的にはカタツムリと同じ、陸に棲む巻貝の仲間(腹足綱)に分類されます。最大の違いは、あの特徴的な殻があるかないか。なめくじは、進化の過程で殻が退化、あるいは完全に消失したグループなのです。殻を失ったことで、カタツムリでは入れないような狭い隙間にも侵入できる機動性を手に入れました。彼らの代名詞である「ヌメヌメ」の正体は、体から分泌される粘液です。この粘液は、彼らにとって生命線とも言える重要な役割を担っています。まず、体の乾燥を防ぐ保湿効果。殻を持たないなめくじは、皮膚が乾燥に非常に弱いため、粘液で常に体を覆うことで潤いを保っています。また、この粘液は移動をスムーズにする潤滑油の役割も果たし、地面との摩擦を減らして這い進むのを助けます。さらに、外敵に襲われた際には、粘液を大量に出して相手を不快にさせ、身を守るバリアともなるのです。なめくじは夜行性で、日中は植木鉢の下や石の裏、落ち葉や雑草の陰といった、暗くて湿った場所に身を潜めています。そして夜になると、餌を求めて活動を開始します。食性は非常に雑食で、植物の柔らかい葉や花、新芽はもちろん、キノコやコケ、さらには他の虫の死骸まで、何でも食べてしまいます。そして驚くべきことに、彼らは雌雄同体です。つまり、一匹の個体の中にオスとメスの両方の生殖機能を持っており、二匹いればお互いに産卵し、繁殖することができます。このたくましい生命力と繁殖力が、彼らが厄介な存在とされる所以なのです。