私が住んでいるのは、裏手に小さな雑木林が広がる、少し郊外の一戸建てです。その年の夏は、庭の家庭菜園で採れるキュウリやトマトが、日々のささやかな楽しみでした。事件が起きたのは、八月の終わりの、蒸し暑い日のことです。庭の隅に積んであった古い植木鉢を動かそうとした瞬間、足元から「ブーン」という、不気味な羽音が聞こえました。見ると、植木鉢の下にあった土の窪みから、黒くて小さな蜂が数匹、 menacingly飛び出してきます。私は、直感的に危険を察知し、その場から飛びのきました。インターネットで調べると、その蜂が、攻撃性の高いクロスズメバチ、いわゆる「地蜂」であり、その窪みが巣の入り口であることが判明しました。最初は、夜になったら殺虫剤で駆除できるだろうと、甘く考えていました。その夜、私は完全防備のつもりで、厚手のジャンパーを着込み、バイクのヘルメットを被って、懐中電灯と殺虫スプレーを手に、問題の場所へと向かいました。しかし、巣穴にライトを向けた瞬間、私の想像を絶する光景が広がっていました。穴の中から、文字通り無限とも思える数の蜂が、まるで黒い噴水のように、猛烈な勢いで噴き出してきたのです。羽音は轟音に変わり、何匹かがヘルメットに激しく体当たりしてきます。私は恐怖のあまり、スプレーを数秒噴射しただけで、情けなくも家の中へと逃げ帰りました。その夜は、蜂が家の中に侵入してくるのではないかという恐怖で、一睡もできませんでした。翌朝、私は震える手で、専門の駆除業者に電話をかけました。駆けつけてくれたプロの方は、手慣れた様子で巣穴の周りを調査し、「これはかなり大きいですね」と一言。専用の薬剤を注入し、しばらくして土を掘り返すと、中からは、バレーボールほどの大きさの、何層にもなった見事な巣が現れました。その光景に、私は改めて、昨夜の自分の無謀さを思い知り、背筋が凍る思いでした。プロに任せることの重要性を、身をもって学んだ、忘れられない夏の思い出です。