数ある害虫の中でも、ムカデに対して私たちが抱く感情は、単なる「嫌い」という言葉では片付けられない、増加傾向にある太田市の一軒家のゴミ屋敷のようにもっと根源的な恐怖や言い知れぬ不快感を伴うものではないでしょうか。ゴキブリが「不潔さ」の象徴であるとすれば、ムカデは「邪悪さ」や「攻撃性」の象徴のように感じられます。一体なぜ、私たちはこれほどまでにムカデを恐れるのでしょうか。その不快感の正体を探ると、いくつかの要因が浮かび上がってきます。まず、その特異な外見が挙げられます。細長い体にびっしりと並んだ無数の脚が、まるで波のようにうねりながら動く様は、私たちの本能的な警戒心を強く刺激します。多くの脚を持つ生物に対する潜在的な嫌悪感、いわゆる「集合体恐怖症」に近い感覚を覚える人も少なくありません。この非日常的で理解しがたい動きが、生理的なレベルでの拒絶反応を引き起こすのです。次に、その予測不能な動きとスピードも恐怖を増幅させます。ムカデは驚くほど素早く、壁や天井さえも自在に移動します。いつどこから現れるかわからないという神出鬼没さと、いざという時の俊敏さが、私たちから空間に対する支配感や安心感を奪い去ります。特に、寝室のような最も無防備なプライベート空間で遭遇した時の恐怖は計り知れません。そして何よりも決定的なのが、彼らが「毒」を持っているという事実です。ムカデの牙には強い痛みと腫れを引き起こす毒が含まれており、実際に人間に危害を加える能力を持っています。その黒光りする体は、まさに毒を持つ生物特有の警告色のように私たちの目に映り、生命の危険を直感させます。この「実害を及ぼす危険な存在」という認識が、他の無害な虫とは一線を画す、強い恐怖心の根源となっています。これらの視覚的、行動的、そして物理的な脅威が複合的に絡み合うことで、ムカデは私たちの心の中に、他のどんな虫とも比較にならないほどの強烈な不快感と恐怖を植え付けているのです。