「やけど虫」という恐ろしい通称で知られていますが、その正体はコウチュウ目ハネカクシ科に分類されるアオバアリガタハネカクシという昆虫です。体長はわずか六ミリから七ミリ程度で、頭部が黒く、胸部と腹部の一部がオレンジ色という特徴的な体色をしています。その姿がアリに似ており、青みがかった光沢のある翅を持つことからその名が付きました。しかし、この虫はハチのように刺したり、蚊のように吸血したりすることはありません。彼らが持つ恐ろしい武器は、体内に含まれるペデリンという強力な毒素です。この毒は、彼らが外敵から身を守るための防御物質であり、メスだけが体内で生成、保持しています。オスは毒を持っていませんが、交尾の際にメスから受け渡されることがあると言われています。問題となるのは、この虫を潰したり、強く払いのけたりした際に、体液が皮膚に付着することです。ペデリンが皮膚に接触すると、数時間から半日ほどの潜伏期間を経て、炎症反応が起こります。これが、線状皮膚炎と呼ばれる、まるで火傷のような症状を引き起こすのです。興味深いことに、やけど虫は自らの毒であるペデリンに対しては耐性を持っています。彼らの生態は、湿度の高い環境と密接に関連しています。水田や畑、川辺の草地などを主な生息地とし、そこで他の小さな昆虫などを捕食しています。成虫は六月から八月にかけての夏場に最も活発になり、夜間、強い光に引き寄せられる走光性という習性を持っています。このため、夜間のコンビニエンスストアの照明や、一般家庭の窓明かりに集まってくるのです。彼らは決して人間を積極的に攻撃するわけではありません。偶然、人の体に止まってしまい、それに気づかずに人が手で払った結果、不幸な事故が起こるのです。その小さな体に秘められた強力な毒の存在と、光に集まるという習性を理解することが、対策の第一歩となります。
意外と知らないやけど虫の正体!その生態と毒の秘密