「ゴキブリの赤ちゃんを見つけたら、すぐに家中を消毒しなければならない」という強迫観念を抱いている方は多いですが、駆除のプロとして数千件の住宅を見てきた私たちが現場で目にする真実は、少し異なります。実は、一般の方が「ゴキブリの赤ちゃんだ」と確信して私たちを呼んだケースのうち、三回に一回は、全く別の昆虫による「誤報」なのです。特に多いのが、野外性のチビゴミムシや、梅雨時期に大量発生するトビムシです。これらはゴキブリの赤ちゃんに色が似ており、サイズも数ミリであるため、一般の目には判別が困難です。しかし、決定的な違いは、彼らは「家の中で繁殖できない」という点にあります。これら似ている虫の多くは、土の中の微生物をエサにしたり、湿った木材を好んだりするため、乾燥した現代の住宅内では数日も生き延びることができません。プロが現場に入った際、まず確認するのは「死骸の分布」です。もし、窓際や玄関の近くに集中して死んでいるのであれば、それは外からの迷い込みであり、ゴキブリの赤ちゃんのように家の中で家族を増やしているわけではありません。逆に、洗面所の扉の内側や、キッチンの引き出しの奥など、生活動線の深部で生きた個体が見つかる場合は、正真正銘のゴキブリの赤ちゃんだと判断します。また、現場でよく見る似ている虫として「カマドウマの幼虫」も挙げられます。便所コオロギとも呼ばれる彼らは、非常に長い触角と脚を持っており、影だけを見ると巨大なゴキブリの赤ちゃんに見えますが、彼らにはゴキブリ特有の「扁平な不気味さ」がありません。私たちプロは、単に虫を殺す薬剤を撒くのではなく、お客様が感じている「見えない恐怖」を、正しい同定という情報で解消することを重視しています。もしあなたが部屋で怪しい虫を見つけたら、まずはその虫が「家族(群れ)」でいるのか「孤独(単体)」でいるのかを注視してください。ゴキブリの赤ちゃんは、まず一匹だけで行動することは稀で、必ず近くに卵鞘の抜け殻や他の仲間が存在します。真実を知ることは、過剰な農薬散布を避け、住まいの環境を適切に管理するための最も賢い道なのです。不快な遭遇を知識というフィルターに通すことで、住まいの安心感は劇的に向上します。