あれは蒸し暑い夏の日のことでした。我が家の清潔なはずの浴室に、どこからともなく小さな黒い虫が姿を現し始めたのです。最初は数匹だったので気にしていませんでしたが、日を追うごとにその数は増え、壁一面にびっしりと張り付くようになりました。それが、私とチョウバエとの長い戦いの始まりでした。まず私が試したのは、市販の殺虫スプレーです。壁に止まっているチョウバエに向かって噴射すると、面白いようにポロポロと落ちていきます。これで一安心、とその日は思ったのですが、翌朝にはまた同じ数のチョウバエが壁を占拠しているのです。叩いてもスプレーしても、まるで無限に湧いてくるかのようでした。この時、私はようやく気づきました。飛んでいる成虫を退治するだけでは意味がない、根本的な原因、つまり発生源を叩かなければならないのだと。インターネットで調べ、チョウバエが排水口のヌメリから発生することを知った私は、すぐさま浴室の徹底的な調査を開始しました。排水口のカバーを外し、中を覗き込むと、そこには目を覆いたくなるような黒いヘドロがびっしりと付着していました。原因はこれに違いない。私は柄の長いブラシと強力なカビ取り剤を手に、ゴシゴシとヘドロを擦り落としました。さらに、パイプユニッシュを丸ごと一本投入し、仕上げに熱湯をやかんで何杯も流し込みました。作業を終えた後の達成感は相当なものでした。そして翌日、期待と不安が入り混じる中、浴室のドアを開けると、壁には一匹のチョウバエもいませんでした。あれだけしつこかった彼らが、嘘のように姿を消したのです。この経験を通じて私が学んだのは、問題の表面だけを取り繕うのではなく、その根源を見つけ出し、断固たる処置を施すことの重要性でした。今では、週に一度の排水口掃除が私の習慣になっています。あの不快な侵入者を二度と我が家に招き入れないために。