ある夜、電気をつけた瞬間に、壁の隅や天井の角で、非常に細くて長い脚を持つ、弱々しげな蜘蛛に遭遇し、思わず声を上げてしまった経験はありませんか。まるで幽霊のように、ゆらゆらと揺れているその姿から、不気味な印象を受けるかもしれませんが、その蜘蛛の正体は「イエユウレイグモ」という、私たちの家屋内にごく普通に生息する蜘蛛です。体長は1センチにも満たない小さなものですが、その何倍もの長さを持つ、極端に細い脚が最大の特徴です。この見た目から、しばしば「足長い蜘蛛」と総称されることもあります。イエユウレイグモは、その名の通り、家の「隅」を好みます。家具の裏側や、押し入れの奥、天井の角、あるいは長期間使われていない部屋など、暗くて、あまり人の動きがない、静かな場所を主な生活圏としています。彼らは、そこに不規則で、粗い網を張り、獲物がかかるのをじっと待っています。その網は、一般的にイメージされるような、きれいな円形の網ではなく、まるで綿ぼこりが絡まったかのような、乱雑な形をしています。そして、この蜘蛛の最も興味深い特徴の一つが、危険を察知した時に見せる行動です。網に何かが触れたり、人が近づいたりすると、彼らは体を高速で振動させ、その姿をぼやかして敵の目から逃れようとします。このブルブルと震える様子が、まるで「幽霊」のように見えることから、「ユウレイグモ」という名前が付けられました。臆病で、人間に対しては全くの無害。それが、家にいる足長い蜘蛛、イエユウレイグモの本当の素顔なのです。彼らは、私たちの生活空間の片隅で、ひっそりと、そして静かに暮らす、臆病な隣人と言えるでしょう。