今でも鮮明に思い出せる、私の人生で最も恐ろしかった夜の話をさせてください。それは、じっとりと汗ばむ夏の夜のことでした。その日、私は仕事の疲れから早めにベッドに入り、深い眠りに落ちていました。しかし、夜中の二時頃だったでしょうか、何とも言えない不快な気配でふと目を覚ましたのです。部屋は完全な闇に包まれ、静寂だけが支配していました。気のせいかと思い、再び眠りにつこうと寝返りを打った、まさにその瞬間でした。私のすぐ隣の壁から、カサカサ、カサカサ、という乾いた音が聞こえてきたのです。最初はエアコンの作動音か何かだろうと自分に言い聞かせました。しかし、音は不規則に、そして明らかに何かが移動する音として私の耳に届きました。心臓が嫌な音を立てて高鳴るのを感じながら、私は恐る恐る枕元に置いてあったスマートフォンを手に取り、ライトを点けて音のする方へと向けました。光の輪が壁を照らし出した瞬間、私は声にならない悲鳴を上げそうになりました。そこには、体長が十五センチはあろうかという、禍々しいほどに黒光りする巨大なムカデが、無数の脚を波打たせながらゆっくりと壁を這っていたのです。しかも、その進行方向は明らかに私のベッドの方でした。全身の血の気が引き、体は恐怖で完全に硬直してしまいました。この密室で、この猛毒を持つ怪物と二人きり。もし眠っている間に布団の中に潜り込んできたら。最悪の想像が頭の中を駆け巡り、パニック寸前でした。私は意を決してベッドから転がり落ち、部屋の隅にあった雑誌を手に取りましたが、いざ対峙すると、その素早い動きに翻弄され、見失ってしまいました。家具の隙間に潜んでいるのか、それともベッドの下か。見えない敵の恐怖に怯えながら、私はその夜、リビングのソファで朝を迎えました。結局、翌朝、カーテンの裏で発見し退治できましたが、あの寝室での恐怖体験は、私の心に深いトラウマとして今もなお残り続けています。