その事故は、紅葉が見頃を迎えた10月の日曜日、家族連れやハイカーで賑わう、とある里山のハイキングコースで起こりました。小学3年生の少年が、コース脇の斜面で、きれいな色のキノコを見つけ、それを採ろうとして、数歩、道から外れた、その時でした。少年の足元の土の中から、黒い雲のようなものが、轟音と共に噴き出したのです。地蜂、クロスズメバチの大群でした。少年が踏んだ場所が、運悪く、巨大な巣の真上だったのです。驚いて泣き叫ぶ少年に、蜂の大群は容赦なく襲いかかりました。異変に気づいた父親が助けに入りますが、彼もまた、無数の蜂の攻撃を受けます。パニックになった他のハイカーたちも、大声を出して走り回り、その動きがさらに蜂を興奮させるという、悪循環に陥りました。最終的に、この事故で、少年と父親を含むハイカー10人以上が、多数の蜂に刺され、病院へ救急搬送されるという大惨事となりました。幸い、死者は出ませんでしたが、少年は一時、アナフィラキシーショックにより意識不明の重体となりました。この事例から、私たちはいくつかの重要な教訓を学ぶことができます。専門家によると、地蜂の巣は、人が頻繁に通るハイキングコースのすぐ脇に作られることも珍しくないと言います。彼らは、登山道の脇の、少しだけ土が盛り上がっていたり、木の根が露出していたりする、わずかな窪みを利用するのです。そして、この事故の被害を拡大させた最大の要因は、「パニック」でした。大声や、激しい動きは、蜂の攻撃性を最大限に引き出します。もし、誰かが刺される場面に遭遇しても、決して騒がず、まずは自分自身の安全を確保し、静かにその場から離れることが、被害を最小限に食い止めるために不可欠です。また、少年が刺された後、父親がすぐに救急車を呼び、救急隊員に的確な状況説明(蜂の種類、刺された箇所と数、少年の意識状態など)ができたことが、少年の命を救う上で決定的な役割を果たしました。秋のアウトドア活動は、常にこうした「見えざる脅威」と隣り合わせであることを、私たちは決して忘れてはなりません。正しい知識と、いざという時の冷静な判断力こそが、私たち自身と、大切な人々を守るための、最強の武器となるのです。