「ムカデはつがいでいるから、一匹見つけたら必ずもう一匹いる」。これは、ムカデにまつわる話として、古くからまことしやかに語り継がれてきた俗説です。実際に家の中で一匹のムカデを退治した後、ほどなくして近くでもう一匹を発見したという経験を持つ人も少なくなく、この説の信憑性を高めています。しかし、この「つがい説」は、生物学的な観点から見ると、正確な情報とは言えません。結論から言うと、ムカ-デが夫婦のように常に行動を共にする「つがい」という習性はありません。ムカデは基本的に単独で生活する生き物です。彼らはアリやハチのように社会性を形成することはなく、繁殖期を除けば、他の個体と積極的に関わることはありません。むしろ、縄張り意識が強く、同種と遭遇すれば争うことさえあります。では、なぜ私たちは「つがいでいる」かのように感じてしまうのでしょうか。これには、ムカデの好む環境が大きく関係しています。ムカデが快適に過ごせる場所、つまり、適度な湿度があり、暗くて狭く、餌となる昆虫が豊富な場所というのは、非常に限定されています。そのため、ある一匹のムカデにとって絶好の住処となっている場所は、他のムカデにとっても同様に魅力的な場所である可能性が非常に高いのです。結果として、同じような好条件の場所に複数の個体が偶然集まってしまい、それが人間の目にはあたかも「つがい」でいるかのように映る、というのが真相に近いでしょう。また、春から夏にかけての繁殖期には、オスがメスを探して行動範囲を広げるため、オスとメスが比較的近い距離で発見される可能性も高まります。しかし、これはあくまで一時的なものであり、永続的なペア関係を意味するものではありません。したがって、「一匹いたらもう一匹いる」という言い伝えは、科学的な意味での「つがい」だからではなく、「そこがムカデにとって生息しやすい環境である証拠だから、他にも潜んでいる可能性が高い」と解釈するのが正しい理解と言えます。
ムカデは本当につがいで行動するのか